NEWS

ニュース

2024.11.23[チーム]

[レビュー]全員の力で上り詰めた天皇杯ファイナル。熱い戦いの全てが今後のガンバの糧に

2015シーズンの天皇杯決勝でキャプテンの遠藤が誇らしげにカップを掲げた後、ガンバは数多くの悔しさを噛み締めてきた。
幾度も経験した残留争いに加えて、スタイルの再構築にも苦闘してきたガンバだが、クラブ史上初のスペイン人指揮官としてガンバを託されたポヤトス監督のもとで、ガンバは一歩ずつ常勝軍団としての栄光を取り戻すべく歩みを進めてきた。

全ては昨年1月の新体制会見で「ガンバがいるに値するところに戻しにいくというモチベーションへの熱意を感じた」と語ったポヤトス監督の言葉が始まりだった。

戦術家として知られるポヤトス監督がガンバに落とし込んできたのは、単なるパスサッカーではなく「ゲームを支配するサッカー」。就任一年目の昨季は結果的に残留争いを余儀なくされたものの、最後尾から狙い通りの形でボールを動かしてゴールを奪ったり、ポヤトスガンバの真骨頂でもあるスペースを作り出す攻撃で、難敵を撃破。その戦いぶりに新時代の到来を感じたサポーターも多いはずだ。

今季はリーグ戦でもJ1屈指の堅守をベースに、夏場には一時首位攻防戦にも挑むなど、復権に向けての予兆を感じさせていたが、天皇杯ではその成果が随所に現れた。
「メンタル的に感情をむき出しにして戦えるのは今のチームの強み。今までのガンバの歴史の中でもどのチームとも違う顔を持っている」。キャプテンとしてチームを牽引してきた宇佐美は今季のガンバの強さをこう語った。

圧倒的な攻撃サッカーで相手をねじ伏せた西野ガンバや、堅守と勝負強さを売りにした長谷川ガンバとは違う強みを持つのが今季のガンバ。その象徴となる戦いが今季の天皇杯である。
「天皇杯は皆で勝ち上がってきた大会。それが準決勝に現れたと思う」と鈴木は延長戦にもつれ込んだ死闘を振り返った。
4シーズン前には宮本元監督のもと、決勝で涙を飲んだガンバだが、コロナ禍の変則的な大会だったため準決勝からスタート。しかし今季は2回戦から一つずつ、そして全員の力で階段を登ってきた。

3回戦の宮崎戦は宇佐美の決勝ゴールで逆転勝ち。そしてラウンド16では湘南に2度先行される苦しい展開だったが福岡と中谷のCBコンビのゴールで再び逆転勝ちを収めた。
「僕らは粘り強くなってきた。何かが起きると皆が感じているし、そこに向かってやり続けられる力がシーズンの終盤についてきた」と中谷が言えば、ポヤトスガンバの心臓部を託される鈴木も言う。
「天皇杯は皆で勝ち上がってきた大会。それが準決勝に現れたと思う」。

過密日程で迎えた横浜F・マリノス戦はガンバの天皇杯の歴史に残るドラマティックな試合となった。
88分に痛恨の逆転ゴールを許しても、パナソニックスタジアム吹田を埋め尽くしたサポーターの後押しがガンバを奮い立たせた。
後半のアディショナルタイムには中谷が起死回生の同点ゴールをゲット。そしてPK戦も視野に入りかけた延長後半終了間際に、今季急成長を遂げた若きストライカー坂本が劇的な決勝点を叩き込む。
「一彩(坂本)なら決めてくれると信じていた」(宇佐美)。三浦が負傷離脱後の最終ラインを中谷とともに支えてきた福岡の縦パスを起点にした攻撃で、宇佐美が坂本に絶妙のラストパス。得点力不足に苦しんだシーズン序盤と異なり、今のガンバはどこからでも点が取れるチームに変貌。そして「自分がチームを引っ張るという意識に変わった」(坂本)と胸を張るアカデミー育ちの若武者が、ガンバを決勝の舞台に導いた。

56,824人の観衆が集った国立競技場のピッチに立ったガンバだが、そこに宇佐美の名前はなかった。試合の2日前の練習で右ハムストリング肉離れの負傷を負った背番号7は無念の戦線離脱。しかし、今季のガンバは決して宇佐美だけに頼ってきたチームではないことを神戸相手に見せつけた。
鈴木は試合前の決意をこう明かす。
「今のガンバは貴史くん(宇佐美)がいるからこそ勝った試合もあるけど、チームの皆で勝ち上がってきた。いい選手はたくさんいるから思い切ってやろうと話をした」。
そしてポヤトス監督も「前半はガンバの方が素晴らしく上回ったし、決定機をしっかりと決めておきたかった」とテンポ良くボールを動かした前半の戦いぶりをこう評価する。天皇杯では打ち合いを制してきたガンバだが宇佐美が不在でもフィールドプレーヤーでは最年長の倉田を含めて全員がハードワーク。シーズン序盤のガンバを支えた堅守と集中力の高い守備で神戸を封じていく。

決勝戦に相応しい引き締まった展開で先手を取るべくポヤトス監督が先に動く。シーズン終盤、積極的なカードを切り、攻撃を活性化させていた指揮官が55分にまず送り出したのは切り札のウェルトン。投入直後から再三、サイドでチャンスを作り出し、ガンバに流れは傾いたはずだったが64分、警戒していたロングボールを起点にされ痛恨の失点を許した。

「前半のいい時間帯に一発仕留めておかないと、相手は息を吹き返してくるのは分かっていた。最後向こうは気持ちでねじ込んだけど、僕らはそれを止められず、ねじ込むことが出来なかった」。倉田は0-1の敗戦を悔やんだが、追う展開になっても折れずに、逆にギアを上げられるのが今のガンバであることを示す。
失点後、キャプテンマークを巻いた中谷が手を叩いて周囲を鼓舞。
それに呼応するように、ポヤトス監督も72分、アラーノとジェバリを同時投入。より攻撃への圧力を高めていくが、アラーノがアクセントとなり神戸を押し込み始めると76分にはアラーノの絶妙のクロスをダワンがフリーで合わせるもシュートはわずかに枠を捉えなかった。

終盤には岸本と美藤を投入し、中谷がパワープレーで最前線に攻め上がるなど死力を尽くして神戸に立ち向かったガンバだったが、無念のタイムアップ。ガンバの復権を見届けるべくゴール裏で熱く声を届けたサポーターに10個目のタイトルを捧げることは出来なかったが、うなだれる選手たちに送られた拍手と声援は選手と指揮官の奮闘を認めたからこそだ。
「自分たちが待ち望んでいた結果ではなかったが頭を上げたいし、チームの仲間を誇りに思う」とダワンが言えば、鈴木も「負けました悔しいです、で終わらせるではなく来年にどう繋げていくかが大事」ともう次なる戦いに目を向ける。

2005シーズンに初タイトルを手にする前にも決勝で敗れたり、悔しい思いを経験しながらスタイルを貫き続けて栄冠を手にしたガンバ。
決勝で敗れた直後の会見で指揮官もキッパリと言い切った。「タイトルを取りたかったし、目の前にあったと思うが、今回の負けを含めてしっかりと成長につなげていきたい。必ず、ガンバがいるべき場所に全員でこれから戻して行く」(ポヤトス監督)

10個目のタイトルを目前に逃した悔しさは今日一日噛み締めるが、常勝軍団の復権を目指す戦いはまだ道のりの途中だ。
決勝戦でノーゴールに終わった坂本もガンバの最前線を託される責任感と重みを決勝戦で改めて噛み締めた一人である。
「決勝の舞台で負けると他の試合よりも悔しい。でもその気持ちがあるからこそ、またここに戻ってきたいし、次は絶対にタイトルを取りたい」(坂本)。
決勝戦までの熱い戦いと、決勝で感じた悔しさは必ず、今後のガンバの糧になる。