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2024.2.5[チーム]
[ WE ARE GAMBA OSAKA・特別編 / コーチ 遠藤 保仁 ]初めて語った引退。そして、これからのキャリア。(後編)
■ピッチで起きる事象やスピード感を想像しながら、選手のサッカー観や視野が広がるような働きかけを心がける。
年が明けた2024年1月12日。遠藤はガンバのコーチとして、新たなキャリアをスタートさせた。
「ありがたいことに、ダニ(ポヤトス監督)をはじめとするスタッフ陣も、初めて一緒に仕事をする選手やスタッフもみんなが受け入れてくれて、仕事をしやすい環境を作ってくれた。クラブがトップチームのコーチをしたいというわがままを受け入れ、そういう働きかけをしていただいたことを含め、すごくありがたく思っています。少しでもクラブに貢献できるように、ダニやチームをうまくサポートしながら、選手の成長がチームの結果につながる仕事をしたいと思っています。あとは、楽しく。それだけかな」
初めて一緒に仕事をするポヤトス監督からはコミュニケーションを図る中で「少しずつコーチの仕事に慣れてくれたらいい」「スタッフと選手を繋ぐような役割をしてほしい」と伝えられたという。
「今は僕自身も、ダニをはじめ周りのコーチングスタッフにいろんなことを教えてもらいながら手探りで仕事をしている部分もありますけど、ダニのサッカー観、スタイルをベースに、こういう考えもあるよね、アイデアとしてはこういうプレーもできるんじゃない、みたいな個人に特化したアドバイスはどんどんしていけたらいいなと思っています。それによって、選手がイキイキとプレーできる環境を整えるための一助になれたらいいな、と。そのために、選手それぞれの行動やちょっとした表情をしっかり観察して、その時々で取り組んでいることに飽きさせないことも大事だし、何がプレーのブレーキになっているのか、どうすればより持ち味が発揮できるのかみたいなことも僕自身が感じ取って、それを必要なタイミングで伝えることもしていきたいと思っています。また選手それぞれ、もちろん相性だとか、仲がいいとかあるのは当たり前だけどそれがグループとして孤立してしまわないのも大事というか。それぞれの個が最後には必ずチームという大きなグループに混ざり合っていくような働きがけはチームとして必要だと思うので、そういう役割もできたらなと思います」
思えば現役時代は、ピッチ上で起きる様々な事象を敏感に感じ取りながら、ポジションを調整したり、リズムに緩急をつけるなどチームの潤滑油としての存在感を示してきた遠藤だが、コーチという立場になった今は、そうしたプレーの代わりに言葉を用いるということだろう。
「選手時代はそこまで深く考えていたわけではなかったですけどね(笑)。ただ選手を引退してすぐに指導者になった利点は、ピッチで起きる事象やスピード感を想像して『そこは(パスを)通せたんちゃうか』とか『あそこは視野に入ってた?』ということを伝えられるのも1つだと思うので。もちろん絶対にそうしろということではなく、あくまでアイデアの一つとしてだけど、選手のサッカー観や視野が広がるような働きかけはしていきたいです」
その言葉通りの姿は、すでに日々のトレーニングでも見受けられる。練習場では三浦弦太や鈴木徳真らと、沖縄キャンプでは倉田秋や黒川圭介、石毛秀樹をはじめ様々な選手とコミュニケーションを図っている姿が目に留まった。
「足元の技術ではなく、どちらかというとサッカーの考え方や見方という意味での技術というのかな。そういうところは自分のポジションにも活かせるはずなので積極的に聞いています。現役時代は聞きにくかったこともコーチなら聞いていいよね、と(笑)(三浦)」
「自分で言うのはおこがましいですが、僕はヤットさんと似たようなタイプの選手だと思っているので。ヤットさんがプレー中、何を見て、どういうことを描いていたのかを聞いて気づけることもあったりして本当にありがたい。あとは、とにかくキックをもっと上手くなりたいので是非、極意を教えてほしいです(石毛)」
実際、沖縄キャンプ中には伝家の宝刀、フリーキックを直接指導している姿も。遠藤も「伝えられることがあれば余すことなく伝えていきたい」と意欲をのぞかせた。
「キックは体のバランスや自分が持っている感覚的な部分も影響するので、教えたからできるというものではないけど、伝えられることは余すことなく伝えていきたいとは思っています。コーチになった今は言葉で伝えること、伝わるように言葉を届けることも指導者としての大事な要素だと思うので、そこは僕自身もチャレンジしていきたいな、と。ただ、何度も言うように、あくまでアイデアの1つとして、です。選手の醍醐味は、誰かの真似じゃなく自分が好きなようにプレーできること。それがサッカーの面白さでもあるから」
■「ガンバはクラブの規模も環境も、紛れもなくビッグクラブ。だからこそ『勝つ集団』であるべきだと思う」。
と同時に、そうした指導の先に見据えるのは、あくまで『チームの結果』だ。それについては一足飛びに得られるものではないからこそ、目の前の1試合1試合に目を向けて積み上げていくことが大事だと強調する。
「14年のガンバがJ1昇格後すぐに三冠を獲得したとか、一昨年は下位で苦しんでいたヴィッセル神戸が去年は上位争いをして優勝したってことが起こりうるのがJリーグという見方もできるけど、最初からそれを描くのは欲を出しすぎというか。結果的にそうなりました、ならいいけど、去年下位に苦しんだガンバが、シーズンが始まる前からいきなり高いところばかりを見るのは危険かなと。結果が出ないことにはちゃんと理由があるわけで、その原因をクラブも、チームとしても1つずつ潰していかないと、根本的な問題の解決にはならない。それをしていかないと安定して結果を出せるチームにもなれないですしね。だからこそ本当に、目の前の試合を1つずつ大事に戦いながら、1つずつ順位を上げていけばいいと思っています。例えば、第3節で14位にいたなら、7節くらいまでに12位くらいになっていればいいね、で十分。実際、僕の現役時代も最初から高いところを目指していたわけじゃなく、まずは目の前の敵をぶっ倒しにいくというのが全てだったから」
あくまで『勝つ集団』としての自覚を失わずに。
「プロクラブというのは、本来、個人を育てるための場所ではなく、勝つことを求める場所だと思うんです。もちろん、選手を育てて売ることを繰り返しながら資金をやりくりするクラブもあって、それも運営方法の1つだとは思います。でも少なくともガンバは選手が育ったからOKというクラブじゃない。近年、J1、J2といろんなクラブを見てきましたけど、ガンバはクラブの規模も環境も、紛れもなくビッグクラブだし、だからこそやっぱり『勝つ集団』であるべきだと思う。正直、メンバーを見ても16位に低迷してOKのチームではないですしね。それだけの環境が揃っていても勝つのが難しいのがサッカーですけど、でも、近年の順位を受け入れすぎてもいけないというか。目の前の試合を1つずつ、順位を上げていくのも1つずつでいいけど、その先には常に勝つことを描いておくべきだし、ガンバの一員として戦うことへの責任と自信を持って堂々とプレーするべきだと思う。その姿をクラブ、チームとして取り戻せるように、僕もできる限りのことをしていきたいと思っています」
ところで彼自身は、コーチとしてスタートした新たなキャリアに、どんな未来を想像しているのだろうか。
「今も変わらず監督をやってみたいという思いはあるけど正直、先のことはわからないです。今は楽しく仕事ができているけど、この先、指導者をしたくなくなるかも知れないし、サッカーはもう疲れたなって思ってどこかで静かに暮らしている可能性だってある。もしかしたらコーチ業に楽しさを見出して、永遠にコーチでいるかもしれないですしね。この先もいろんなことを見て、勉強しようとは思っていますけど、どこに行き着くのかは正直、自分にもわかりません。でも、これまでもそんな感じだったから、これからもきっとなるようになるでしょう」
引退への後悔を少しも残していないことだけは確かだが。
「選手を見ていても、ぜんぜん現役に戻りたいとは思わない。もうあんなにしんどい思いをして走りたくないから(笑)。汗をかいて気持ちよかったーって程度に、楽しく走る分にはいいけど」
十分に戦い切った、走り切ったと言い切れる26年の現役生活に終止符を打ち、遠藤保仁はキャリアの多くを過ごしてきた古巣で新たなサッカー人生をスタートさせた。選手時代と同様に、過度な気負いはない。ただし、常にその芯に据えてきたプロフェッショナルイズムは今も変わらず熱を放ち続けている。それが再び、ガンバとどんな融合を見せ、熱狂を生み出すのか。今はただ、それが楽しみで仕方ない。
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高村美砂●文 text by Takamura Misa
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